5月24日ZOZO(3092)が(1)自己株式取得の取得(TOSTNET3)と(2)行使価額修正条項付新株予約権(所謂MSワラント)の第三者割当発行を決議した。
(1)自己株取得の概要
取得予定株数の上限:8,544,000株(発行済株式総数対比2.7%)
取得金額の上限:320億円
1株あたり取得価格:3,745円(5月24日終値)
応募予定者:前澤友作(現在13.3%保有)
買取原資:手元現金(2021年3月31日残高616億円)
(2)MSワラントの概要
潜在株数:6,780,000株(発行済株式総数対比2.2%)
行使総額:約250億円(5月23日(発行決議日前日)の終値を基に仮計算)
行使期間:2021年6月16日から2年間
行使価額の修正:行使日前日終値の94%に修正(上下)
上限価額:なし
下限価額:3,745円(5月24日の終値)
その他:行使指定条項及び行使停止条項あり
割当先:B of A 証券
本スキームは、2021年6月末までにプライム市場の上場維持に必要となる流通株式比率35%が達成できない見込みが高くなったことから、流動株式比率の向上のための施策として実施される。
流通株式比率=流通株式/上場株式数
流通株式=上場株式数―(主要株主(10%以上保有)の株式+役員等所有株式+自己株式+国内の銀行、保険、事業会社が保有する株式(純投資を除く)+その他取引所が固定的と認める株式)
なお、ZOZOの2021年3月末時点の上位株主リストは以下の通り。
Zホールディングス中間合同会社:49.1%
前澤友作:13.3%
日本マスタートラスト信託:3.0%
ただ、本スキームの(1)で前澤氏から会社が自己株を取得しても、「主要株主の株式」から「自己株式」に変更されるだけであり流通株式数に変化はないが、(2)のMSワラントの行使が進めば自己株式の減少を通じて流通株式が増加することから、流通株式比率の改善には一定の期間を要することなる。よってZOZOとしては、6月末の時点で新株予約権の行使が進まずに流通株式比率35%が未達であったとしても、本新株予約権を上場維持のための経過措置で求められる改善計画の一環と位置付けることで上場維持への好影響を期待するとしている。
また、既存株主との関係では、
自社株買いの株数>新株予約権の潜在株数(希薄化縮減)
自社株買いの株価≦新株予約権の行使価額(Buy Low Sell High)
であることから、EPSの向上も期待される。
なお、固定株主からの売却でも流通株式比率は達成しうるが、売主の意向を会社が完全にコントロールすることは不可能であることから、一旦自社株買いを行い、会社が流通株式数の増加にイニシアティブを発揮しうる本スキームを採用することで、その達成確度を高めているとされる。
所感
上場子会社は流通株式比率がプライム市場維持のためのハードルとなりやすいが、ZOZOは固定株主からの自己株式取得+MSワラント発行を通じて35%の流通株式比率の達成可能性を示した格好になる。流通株式数の増加のために、自己株式取得+ワラントを実施した例は目新しい。また、新株予約権の行使価額>自己株式取得価額であることから、行使促進のためには株価の向上が必須であることから、既存株主の利益に配慮しつつ、市場に対し経営陣の自信を示したスキームとも言える。なお、250億円規模のMSワラントの発行はZOZOの発行済株式との関係では小さい規模ではあるが、金額的には久方ぶりの大型案件となる。
PTSは2.8%アップの3,850円まで上昇。
今後の注目点
6月末の判定基準日まであまり時間はないが、流通株式比率の改善スキームとして他社も同様のスキームを実施するか注目される。
【用語解説】
EPS…Earnings Per Shareの略称で和訳は1株当たり利益。一株に対して最終的な当期利益(当期純利益)がいくらあるかを表す。当期利益を発行株式数で割ったもの。
(引用:野村證券株式会社「証券用語解説集」)
PTS…Proprietary Trading Systemの略称で、投資家が証券取引所を経由せずに株式などを売買できる私設取引システム。(引用:野村證券株式会社「証券用語解説集」)
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