メルカリによるチープ・デット型CBの発行

更新日:2021年12月22日


6月28日、メルカリ(4835)が、500億円のユーロ円転換社債(CB)を発行決議し、オーバーナイトで条件決定した。


2026 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び2028 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ
2026 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び2028 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行条件等の決定に関するお知らせ

発行概要は以下の通り。


  • 年限:250億円(5年)、250億円(7年)

  • クーポン:なし

  • 発行価額:100円

  • 募集価額:102.5円

  • 転換価額:9,346円(6/28終値6,030円対比54.99%アップ)

  • 転換制限条項:あり(転換価額の130%=12,150円)

  • 現金決済条項:あり

  • 潜在希薄化率:6.78%

  • 主幹事:MS/GS/Mizuho/SMBCNikko/Daiwa

  • 資金使途:借入返済250億円 メルカリUSの人材採用及びマーケティング費用100億円 メルペイの与信事業における運転資金100億円 新規事業投資50億円

同社株価のヒストリカルボラティリティは100日で約50%と非常に高い水準にあることから、転換価額のアップ率55%という非常に好条件のプライシングに成功。

また、株価も2018年6月の上場以降最高値圏、昨日の終値ベースでバリュエーションはPER445倍(21/6期予想ベース)、PBR24倍であり、転換価額9,346円は上場来高値(6,160円)を遥かに超える水準で設定された。


さらに株価が12,150円(昨日の終値の約2倍)になるまでは希薄化しない転換制限条項、かつ転換価額を超えて株価が推移した場合も、社債の額面償還+値上がり益相当部分のみ株式発行で決済する条項(Net Share Settlement(現金決済)条項)が搭載されていることから大幅に希薄化が抑制されうる設計となっており、教科書的な転換抑制型(チープ・デット型)のCBとなっている。


同社の現在の財政状態を見ると、2021年6月期の3Q(3月末)における自己資本比率は14.7%であり、本CB発行後に負債がネットで250億円増えることから、表面上の自己資本比率は13.6%に下がり、一見レバレッジが過剰に見える。


ただ、預り金(3月末1,142億円)が流動負債に含まれ、かつ現預金が同額以上見合いで存在する(3月末1,716億円)状態が継続しており、同社のビジネスモデルから想定されるバランスシートは預金が運転資金の役割を果たす金融機関的なものと捉えるべきであることから、有利子負債634億円と純資産372億円で計算されるD/E1.7倍が本CB発行(及び借入返済)後にD/E約2.3倍に増加すると捉えるのが適切な見方であると考える。


この点、成長投資に振り向ける分については、より資本性の高い株式の新規発行により調達したとしても、現状の株価水準および財務健全性の観点からは株式市場からも一定の理解が得られるように思える。


しかし、同社は6月23日にメルカリJPの好調、メルペイの定額払いの増加による収益力強化、メルカリUSのユニットエコノミクスの改善などグループ収益基盤が強化されたことに伴い今期業績の上方修正を発表したこともあり、成長投資の資金を現株価での株式発行ではなく、中長期の負債で賄う攻めの財務政策を選択したと評価できると捉えられる。

新興企業が自社の株の高いボラティリティを最大限活用し「簡単に転換しないCB」を組成した事例として注目される。


翌日6/29の同社株価終値は前日比90円(1.5%)安の5,940円。


 

【用語解説】

ヒストリカルボラティリティ…テクニカル分析手法の一つで、過去のデータに基づいて統計的に算出した将来の変動率のこと。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集


CB…Convertible Bondの略称。かつて「転換社債」と呼ばれていたが、平成14年4月1日の商法改正によって正式名称が「転換社債型新株予約権付社債」となった。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集

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