東芝の調査結果を受けて



東芝の一連の調査結果については、会社経営陣や経産省に対して厳しい批判の目が向けられているが、機関投資家の反応はどうであろうか。


政府の諮問委員なども務め、コーポレートガバナンスの論客としても知られる著名な日本株投資家は、本件は政府からの(東芝株主だけではなく)日本企業への投資家全体に対する強い圧力と感じ、本邦において今後も継続して投資事業を営むことのリスクを自身のSNSで厭世的な口調で吐露している。


背景は異なるが、村上ファンドのインサイダー事件で「ファンドだから、安ければ買う、高ければ売るという徹底した利益至上主義に慄然とする」と断じた1審判決から丁度10年が経つが、日本の資本市場改革の時計の針は大きく戻ってしまったのだろうか。


コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードがもたらした新たな資本市場の世界観は、投資家と発行会社が「建設的な対話」を行い、その柔らかな語感からも投資家は紳士的に株を静かに保有し続けるという暗黙の期待があるように思う。


ところが投資家の声が少しでも大きかったり短期的なキャピタルゲイン志向が垣間見えた場合に、発行会社やその背後の存在の「本音」が顔を出し、ゲームのルールすら変わり得るとすると、本質的に臆病な投資家は市場に留まることはないであろう。


昨今、国や東京都は国際金融都市の地位の奪還を夢見て、税制の恩典から英語での登録申請受付からはたまたバイリンガルのベビーシッター確保まで海外のアセットマネジャーの勧誘に腐心しているが、表面的なインフラが整備されたとしても投資家はリスクに敏感であることは香港金融界の急速な地盤沈下を見ても明らかだ。


一方で、一部には今回の件は当該経産省官僚が外為法の主管ではなかったことなどから、政治的意図や構造的要因はなく純粋に関与した個人の倫理観や誤った正義感に基づく特殊な事例に過ぎないとする醒めた声もある。


ただ気になるのは、調査報告書に登場するM氏は、渦中のハーバード大学のMBA向け教材において日本におけるESG投資の第一人者として取り上げられており、報告書の内容が真実であるとすれば衝撃は大きい。既に同大学は東芝株は売却したと報道されているが、一過性のリスク回避行動であり日本株全体に対する態度表明ではないことを祈りたい。


構造的な市場の未熟さなのか当事者個人の問題なのか、今回の一連の問題を評価するにはまだ早計かもしれないが、本件を契機に本邦におけるコーポレートガバナンス進化のスピードが緩まないことを望みたい。


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