top of page

無形資産の価値について

更新日:2021年12月22日



近年、企業価値評価における無形資産の重要性は日に日に増しており、米国では企業価値の約8割以上が無形資産によるものという分析結果も存在する。一方で国内においては、企業価値における無形資産の割合は未だ2割程度ともいわれる。

こうした状況の主な理由は、知的財産を中心とする無形資産の市場における流動性が本邦では相対的に低く、結果として直接的な経済的価値算定が難しい側面が存在するためである。


無形資産を経済的・財務的価値に紐づける事例として、昨年12月、Spiber(山形県鶴岡市)が三菱UFJモルガン・スタンレー証券をアレンジャーとした事業価値証券化により約250億円を調達したことが話題となったことは記憶に新しい。


同スキームでは、同社が持つ技術力や特許などの無形資産を、一般的な有形資産と併せて「将来的な事業価値」として評価し、それを根拠として資金供給・調達が行われている。流動化対象(担保対象)のスコープなど詳細こそ明かされていないものの、同社の無形資産に対して一定の評価がなされ、数十~数百億の事業価値が認められたことになる。



他方で、特定の無形資産に対してポテンシャルのみでこれだけの価値が認められるには、実際の将来キャッシュフローとまでは言わないまでも、それに準ずるいくつかの重要な要素が必要であることも同事案からは透けて見える。


まずは可能性が可視化できていること。当該知財を保有していることにより、どういったサービス・プロダクトが展開可能、あるいは既存事業の参入障壁になりうるか。結果として当該事業あるいは(ライセンスアウトなどにより)他社においてどの程度の収益が見込まれるのかを示すことが当然ながら必要となる。


さらに他にも戦略の有無等の観点が存在するが、同社のケースでは「環境負荷軽減」という今後の確固たる社会的ニーズに合致していることが最もわかりやすい戦略・訴求ポイントであることは言うまでもないであろう。


加えて、端緒となるような明確な初期顧客・チャネルや協業パートナーが存在することも大きな要素である。同社の場合、協業パートナーとして人工タンパク質素材原料プラントを手掛けるArcher Daniels Midland(米)とのパートナーシップが、同無形資産から生じる将来価値をより確固たるものとしている。


当然ながらSpiberの事例は非常に差別化要素の強い知財群であることから、斯様なストーリーも描きやすい。他の日本企業が保有するすべての無形資産に対して同じことが言えるわけではないものの、一定の強みを持つ知財群を保有する企業も多い。


したがって、特許を中心とする無形資産の評価を通じて企業価値をよりクリアに説明・再定義可能な企業も多数存在すると想定され、そうしたムーブメントによりロジカルに日本企業の企業価値が底上げされていくことが期待される。

最新記事

すべて表示
bottom of page