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「知的財産推進計画2021」重点分野と論点[1]

更新日:2021年12月23日



2021年7月13日、首相官邸において知的財産戦略本部会合が開催され、「知的財産推進計画2021~コロナ後のデジタル・グリーン競争を勝ち抜く無形資産強化戦略~」が決定された。公表されたレポートでは、世界が「デジタル化」「グリーン化」を基軸とした競争に突入している中、日本はイノベーション活動において大きく遅れをとっているという危機感がにじむ。


日本の知財創造・活用を喚起するために必要なこととして、計画では7つの重点施策を提示している。注目すべき1つ目の施策は「競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化」。同年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」を引き合いに出しつつ、企業側が知財投資・活用戦略の開示、発信、対話に取り組むことで、イノベーションに資金が流れ、活動が活発化することを期待するものだ。投資家としても、知財投資および活用戦略を効果的に推進している企業を選別し、投資をすることが求められる。


当コラムでは「知的財産推進計画2021」が提示した7つの重点施策に沿い、知的財産・無形資産活用をとりまく状況について5回にわたってお伝えする。


施策1:競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化


下図が示すように、欧米では企業価値の源泉が無形資産にウェイトが移行していく中、日本では知財をはじめとする無形資産の活用は十分とは言えない。


出典:OCEAN TOMO「Intangible Asset Market Value Study」


そのような中、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは経営戦略の開示にあたり、自社のサステナビリティについての取り組みと並行して、人的資本や知的財産の投資についても自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、分かりやすく具体的に開示・提供すべきであることが盛り込まれた。加えて、取締役会が人的資本・知的財産への投資額を鑑み、経営資源の配分や事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきであることも付記された。


これにより、企業・投資家それぞれに下記のような対応が求められる。


◆企業側に求められる対応:『知財投資・活用戦略の見える化』

  • 単なる保有知財のリストではなく、知財を活用してどのようなビジネスモデル・価値提供・マネタイズの実現を目指すのかという戦略的な意思表明

  • 現有知財の活用法と不足する知財の獲得方法の明確化

  • 投資家が客観的に比較することを可能とするための知財投資・活用戦略の指標化


◆投資家に求められる対応:『企業が開示・発信した知財投資・活用戦略を的確に把握』

  • エンゲージメント活動において、企業が開示・発信した知財投資・活用の的確な評価・分析と活用(評価・分析には専門調査会社等の機能の活用が有効)

  • 知財投資・活用戦略を効果的に推進していると評価できる企業の選別と積極的な資金提供

こうした取り組みによって、積極的な資金提供が行われるような力学が働くエコシステムの構築を目指すべきである。