「知的財産推進計画2021」重点分野と論点[2]

更新日:2021年12月23日



本記事では、引き続き内閣府の知的財産戦略本部が2021年7月31日にまとめた「知的財産推進計画2021」で示された重点7施策について、THE CODE編集部の知見も交えつつ紹介していく。


施策2:優位な市場拡大に向けた標準の戦略的な活用の推進


デジタル化の進展は、従来の製品・サービス、企業、業種ごとのピラミッド型のバリューチェーン構造型システムから、業種横断的な「レイヤー」でつながるネットワーク型システムへと変化しており、昨今のDXの潮流に乗り同トレンドはさらなる加速を見せている。


デジタル化による産業構造変化(出典:「知的財産推進計画2021」)


この新たなサービスモデルの特徴は、ネットワーク外部効果が発生するところにあり、一度ネットワーク・エコシステムを占有してしまえば優位に立てる反面、他社の標準戦略によりレイヤー内で不利な状況に置かれてしまうと、挽回は困難となる。


そのため早期に競争優位性を確立する上で、いかに自社の得意な分野・レイヤーで「早期に」優位なポジショニングを築けるかが重要であり、それを実現するための標準戦略がこれまで以上に必要不可欠な手段となっている。


諸外国では、標準戦略は経営判断の根幹といっても過言ではなく、現に欧州・中国の有力企業の経営トップ・事業部部門長自身が国際標準機関の重要ポストを獲得するなど、国際標準化活動に主体的に関与してきている。


また、官民連携体制においても米国ではNIST(註1) が政府指示により民間関係者を巻き込み、重要分野に関する標準案の検討を行っており、中国やドイツでも同様の取り組みを行っている。


一方、日本では標準戦略の認識自体が希薄であり、官民の連携や日本企業のロビイスト数とロビー費用は欧米企業に比して少ないなど、戦略的な標準化活動において遅れを取っていると言える。


そのため、日本として活発化する国際標準化活動に戦略的に対応するためにも産官学が役割分担をして有機的に連携し、国際標準活動を進める体制強化と人材強化をすることが必要となるだろう。こうした状況の中、産総研では、これまで培ってきた標準化活動のノウハウを元に、ステークホルダーと協働した標準化活動に取り組むことを目的とした標準化推進センターを設置している。


政府においては、2020年度に政府内の標準活用戦略に関する司令塔機能の構築と実行体制の整備と強化、関係省庁の予算事業に対して機動的に追加財源を割り当てる体制を整えた。さらに重点分野として、スマートシティ・Beyond5G・グリーン成長(水素・燃料アンモニア)・スマート農業・スマートフードチェーン・国際商流・物流(追加指定準備)を選定し関係機関と連携し、必要な取組を推進していく予定である。


標準活用を進めるにあたっては、標準必須特許の獲得・活用を通じた収益確保も視野に入れた戦略の構築が不可欠であるが、日本企業は、例えば5G技術において標準必須特許の獲得競争で遅れを取るなど戦略的な獲得・活用が十分にできていないのが現状である旨、報告書では指摘されている。他方でIoT技術の浸透は、特に標準必須特許を巡る異業種間の紛争解決が困難となる傾向があるのもまた事実である。


本来、標準必須特許は優れた技術の社会実装を加速させるイノベーション・エコシステムを実現するツールであるが、そもそもの優れた技術の社会実装が遅れたり、更なる技術開発に向けた投資に悪影響が生じたりしては本末転倒であるため、標準特許を巡るライセンス交渉が構造的な問題を抱えている場合、政府としても当事者間の円滑なライセンス交渉に向けて、改善を図っていくことが必要となる点について言及している。


諸外国の政府は標準特許の在り方について積極的な発信を行っているが、日本においても2018年6月に特許庁が「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」を公表している。


さらに、標準必須特許を巡る円滑なライセンス交渉の実現に向け、次の点について、グローバルな動向を踏まえつつ検討を進めていくべきであるとしている。


  • 誠実な交渉態度の明確化 ライセンス交渉において、交渉当事者がどのような対応をとれば、誠実な交渉態度と評価されるかについて、更なる明確化に向けた検討

  • 必須性の透明性向上 標準必須特許は、中には疑わしいものも含まれているとされているため、2018 年4月に特許庁が開始した標準必須特許の必須性の透明性向上にむけた必須性判定制度の有効な活用に向けた検討

  • ライセンス対価設定の透明性確保 ワンストップ・ライセンス機関が一方的にライセンスの対価を設定することへの懸念から、ライセンスの対価の透明性確保等に向けた検討


最後に言及のあった「ライセンス対価」を筆頭に、これら透明性の確保に際しては、対象となる特許の技術的価値評価指標(すなわち交渉ステークホルダーにおける共通言語)が存在しないことも一つの原因として挙げられており、結果として欧米対比でロイヤルティ料率の低さにつながっている。


日本企業の無形資産が、より市場から評価され企業価値を押し上げていくためには、無形資産価値やその評価方法に関しての個社単位での開示のみならず、斯様な仕組みづくりによる客観的視座・指標の導入とそもそもの開示企業の拡大の両輪が必要不可欠である点は言うまでもないであろう。


 

註1

国立標準技術研究所(米国):国内標準化機関やコンセンサス標準のフォーラムにおける標準策定に関与して、技術的知見や評価結果の提供、民間利害関係者間の調整を支援するとともに、政府から指示を受けて民間関係者も巻き込み、スマートグリッドやサイバー・セキュリティーなどの重要分野に関する標準案の検討を行っている。

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