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消却されたトヨタ優先株の意味するもの



4月2日、2017年の発行時にに反響を呼んだトヨタの優先株(第1回AA型種類株式)がひっそりと消却された。元本保証がついていることから実質的には社債にもかかわらず議決権が付与されていることからEmpty Votingの懸念があるなどの批判が相次いだ一方、長期保有者に配当や議決権で経済的に遇するのは欧州を中心にグローバルな潮流であると支持する意見もあり賛否両論で、議決権行使助言会社の見方も二分した。


ここではトヨタ優先株が非上場で譲渡禁止がついており投資家の出口は会社への現金や金銭での取得請求しかない証券であったことに注目し、昨今注目を集める非公開、つまりプライベートな資本市場についての見方を整理したい。


近年、上場証券は短期的な投機の対象となりボラティリティが高く、売買のできないプライベート証券の方が投資家にとってリスクリターンに優れるという論調が見られるようになっている。一例を挙げると、コロナ直撃により上場REIT指数は直前高値の2244.38(2/21/2021)から1ヶ月の間で約50%下落したが、私募REITについては(償還請求の基準となる)NAVは安定的に推移し、REITの主要投資家である地銀は利回りが低くても私募REITやそれ以外の私募投資信託に資金を集中していると報道されている。


一方で、上場会社側も、市場で短期売買を繰り返すトレーダーではなく、企業価値の中長期的な増大に関心がある中長期保有投資家と腰を据えて建設的な対話をする姿勢が望まれる流れは加速している。その究極の形として非公開化も相次いでいる上、ユニコーン企業の時価総額の増大などに見られるように、プライベート資金供給の巨大化によりそもそも流動性のある上場市場の存在意義すら疑問視される声も聞かれている。


「流動性リスクはより高いリターンで補填されるべきだ」というのがファイナンス理論のABCだった筈だが、それも変わってきているようだ。少し前になるが、プライベート市場で世界最大の投資家のひとつであるCalpersのCIOは、「流動性は価格が頻繁に観察されず、理論価値評価により時間ラグをもって投資家に伝えられることにより『時間の分散効果(timing diversificatioin)』を与えそれがリスクの減少、要求リターンの低下をもたらしている」とコメントしている。これに対して、上場株ヘッジファンドAQTのCIOは、「プライベート市場は経済的にはレバレッジの聞いた中小型株投資と同等であって本当はその証券価値にボラティリティが存在するにもかかわらず、それを単に観察できないから結果として投資家が売り急ぎをせずリターンが高まっているだけで、本質的に資本コストが下がっていると考えるのはナンセンス」と皮肉を込めて反論している。


「非公開市場」の方が事業会社にとっても投資家にとってもより優れた資本市場である」という命題が真なのであれば、より多くの資本が集まり結果として資本コストは低くなり、水が高いところから低いところに流れるように、企業という財が公開市場から非公開化市場の手にシフトするのは頷けよう。東芝の非公開化の買収合戦もそれを示唆しているのであろうか。


試金石はGFC以来の未曾有の長期の右肩上がりの資本市場が逆回転を始めた際に、そういった非公開証券のポジションの反対側がいるかという問題であろう。全ての証券にトヨタ優先株のような元本保証がついているわけではない。


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