本邦初のJREITの非公開化(概要解説)

更新日:2021年9月1日



4月7日、Starwood Capital(以下、SC)に属する投資ビークルがインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(3298)の全ての投資口を取得し非公開化するためのTOBを開始した(4/2に同社が提出した大量保有報告でTOBを予告済み)。

買付の下限は議決権の2/3、TOBで取得できなかった投資口についてはスクイーズアウト手続を想定している(所謂、二段階買収)。投資法人の役員会の賛同を得た上での公開買付ではなく、敵対的TOBとなっている。


スターウッド・キャピタル、インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人の全発行済投資口を1口あたり20,000円で取得する計画を公表

非公開化の目的、背景


  • 短期的な業績を犠牲にした資本支出は上場REITには適さない コロナ禍を背景としたオフィス需要の不確実性に柔軟に対応するためには、一時的な費用の増大や収益の悪化リスク等の短期的な業績変動を伴ったとしても、積極的な資本投下等が長期的な資産価値の向上のためには必要だが、半年毎に分配金の確保が必要となる等の法的及び商業的制約がある上場REITは柔軟な対応に適さない。

  • 資金調達や採用上有利といった上場メリットはREITには当てはまらない 事業会社の非公開化のデメリットとして指摘される資金調達力の不利益は、私募REITにはなく、かつ人事採用上の上場会社の優位性もREITにはない。

  • 非公開化後の運用方針:私募REITとして運用

  • 買付期間:4/7-5/24

  • TOB価格:20,000円

  • 公表直前の投資口価格4/2の終値17,650円対比13.3%プレミアム

  • NAV17,684円対比13.1%プレミアム、修正後NAV17,743円対比12.72%プレミアム

  • 市場投資口価格法(15,125円〜17,442円)の中央値16,283円の22.82%プレミアム

  • 類似企業比較法(13,800円〜18,536円)の中央値16,168円の23.70%プレミアム

  • 買付代金(1,655億円)の資金調達

  • 買付代金(1,655億円)の資金調達

  • 979億円:Starwoodのファンドからの出資

  • 公開買付代理人:三田証券/マネックス証券


発行会社の反応(4月15日に以下を公表)


  • 買付期間の延長要請 十分な情報をもとに投資主が応募の可否を判断し、かつ投資主総会(6/30に設定。後述)前に買付期間が終了しないよう買付期間を60営業日とするよう要請(買付終了日5/24→7/5)

  • 特別委員会の設置

  • 役員会の意見表明(留保)

  • 独立委員会の最終判断が出ていない

  • 提案評価のための情報不足

  • TOBは強い「強圧性」があり、投資主総会で投資主の意思を確認すべき(投資主総会は6月30日に開催)

  • TOBに反対する少数投資主が異議を述べる機会が与えられないままスクイーズアウトを余儀なくされるのは「公正なM&Aの在り方に関する指針」の考え方に照らしてスキームの公正性に深刻な懸念

  • 投信法ではスクイーズアウトは想定されていない、かつ投資口併合も潜脱懸念あり

  • 投資主総会開催公告(開催予定日6/30)

  • SCへの公開質問

  • 投資法人の運用方針、REITの運用能力及び実績

  • 公開買付及び非上場化の目的

  • 公開買付価格

  • スクイーズアウトの適法性

  • TOB後の有利子負債の借り換え

市場の反応


4/2の大量保有報告提出後の4/5から4/16まで株価はTOB価格の20,000円を超えて推移しており、市場は他の買収者の出現、TOB価格の上方修正を期待した相場形成となっている。


注目点


本邦初のJREITの非公開化案件として、本件における発行会社の対応方法等は今後のJREITの非公開化案件プロセスの事実上の標準となる可能性があり、以下の点が注目される。

  1. 発行会社は投信法ではスクイーズアウト及び投資口の併合は想定されていないことを懸念しており、少なくともグレーゾーンについては投資主総会の判断に委ねるべきとの考え方を示しているが、このような考え方が受け入れられか?

  2. 「公正なM&Aのあり方に関する指針」は、専ら支配株主による買収またはMBOなどの利益相反が構造的に存在するM&Aについての指針を示したものであるが、「強圧性」の考え方が独立第三者間でのTOBに当てはめて適用されうるのか?

  3. 通常の事業会社と異なり、不動産投資の器であるJREITの敵対的な公開買付の局面において、どこまで買付後の運用方針等について留意、議論する必要があるのか? 運用方針にかかるヒアリングは「公正なM&Aの在り方に関する指針」に示されている「M&Aを行わなくても実現可能な価値」と「M&Aを行わなければ実現できない価値」を発行会社の役員会が峻別するための情報収集のための位置付けと想定されるが、事業会社との対比では不動産ポートフォリオの集合体であるJREITについては買付後の運用方針等にかかる相対的な重要性は劣後するのではないか?(TOB価格が全てではないのか?)

  4. SPはどのようにNAVプレミアムの価値を実現するのか?

  5. 非公開化後は私募REITとして運営される方針だが、REITの税務上の導管性要件は充足されるのか? 公開買付主体がSCが直接、間接に運用に関する6ファンドに分かれていることで、下記の50%超の投資主がいないことになるのか? ※事業年度の終了時点において同族会社のうち租税特別措置法施行令39条の32の3に定めるものに該当していない(発行済投資口総数または議決権総数の50%超が1人の投資主及びその特殊関係者により保有されていない)こと

  6. 買付期間は発行会社の要請に従い延長されるか?

  7. JREIT特有の投資主総会における「みなし賛成」制度は本件ではどのような運営がなされるのか? 2019年、JREIT初の敵対的M&Aであったスターアジア不動産投資法人/さくら総合リート投資法人(ホワイトナイトとしての投資法人みらい)での「みなし賛成」制度にかかる議論が参照されることになると思われる。

  8. 対抗TOBは出現するか?


この件に関しては、複数回に渡って解説を行っていく予定である。


 

【用語解説】


NAV…投資信託の純資産総額のことで、Net Asset Valueの略。純資産総額は投資信託の貸借対照表(バランスシート)の資産から負債を差し引いた額であり、それを単位口数に換算したのが基準価額になる。(引用:野村證券株式会社「証券用語解説集」)

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