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本邦初のJREITの非公開化(4月・5月)

更新日:2021年7月2日



[2021/04/21]

4月7日、Starwood Capital(以下、SC)に属する投資ビークルがインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(3298)の全ての投資口を取得し非公開化するためのTOBを開始した(4/2に同社が提出した大量保有報告でTOBを予告済み)。投資法人の役員会の賛同を得ていないJREITの敵対的TOBは本邦初である(4/16付、「本邦初のJREITの非公開化(その1)」を参照)


4月15日、投資法人側の役員会は意見を留保した上で、公開買付期間の延長要請(TOB期間の最終日:5/24→7/5)を行うとともに、賛否のための情報収集としてSC側に公開質問を実施、かつ非公開化について投資主の是非を問うべく投資主総会開催(6/30を予定)を発表した。


これに対し4月22日、SC側は回答報告書をEDINET上公表。回答報告書は一問一答式となっているが要旨は以下の通り。


  1. 公開買付期間の延長の要請は拒否(不要) これまで投資法人が公表してきたNAVは、今般設定された独立委員会メンバーである、投資法人である監督役員のチェックした、独立した第三者鑑定評価機関による不動産ポートフォリオの評価額により算定された公正な評価額であることに疑いの余地はなく、また既に一定期間公表されている情報であることから投資主に対する情報の非対称性もない。その上で、当該価額に13%プレミアムを付したTOB価額/スクイーズアウト価額は公正な評価額であることに疑問を挟む余地はない。 本報告書で特別委員会及び投資法人の判断のために回答を公表し、かつ間接的なマーケットチェックを確保するために日本のM&A実務において推奨される30営業日の公開買付期間を既に設定していることから、それを上回る3ヶ月の公開買付期間を設定する実益は投資主にとっては皆無である。

  2. 適正な公開買付価格 20,000円はNAV13%プレミアム、かつ4年分の分配利益の前倒し受領を可能にする価額。NAVは投資法人そのものが過去の公表数字で公正であると主張してきた価額。

  3. 現在の資産運用会社との契約継続を希望 現在の資産運用会社が当社が掲げるポートフォリオの長期的な価値最大化方針に賛同/連携頂けるのであれば、非公開化後も委託契約を継続する希望であること(更迭ありきではない)。ただし、仮に連携が不可能な場合はSCではなく第三者の委託先を選定予定(SCが運用者となることはない。)

  4. 事前協議をしないことが投資主に対する透明性を可能な限り高める方法 資産運用会社/投資法人の執行役員は上場維持のインセンティブが強い。 したがって、非公開化においては投資主と資産運用会社の利害は一致しておらず、公開買付発表→事後交渉が最も投資主の利益に資するプロセスと判断。

  5. 強圧性はない 投資口併合は投信法上、純資産に照らして公正妥当な額で買い取る義務を投資法人がそもそも負担しており(株式会社よりも手厚く投資家が保護されている)、かつ反対投資主の裁判を受ける権利は保証 公開買付手続きの透明性、公正性が十分に確保(保守的な手続を設定) 独立した第三者による公開買付であるにもかかわらず、マジョリティオブマイノリティ条件やインフォームドディシジョンが特に求められているMBOや支配株主によるM&Aで求められるM&A手続を実質的に満たした手続である

このほか、「後任の資産運用会社の運用方針」、「税法上の導管性要件をどのように充足するか」、「非公開化後の投資法人に資するS Cのパイプラインの有無」「有利子負債の借換え(上場廃止に伴うクロスデフォルト条項への対応)」にかかる質問については、投資主による非公開化判断とは無関係な質問と評価しながらも一定の回答を行なっている。


所感


総じて、SCとしては「想定の範囲内の質問」といったところと思われる。特に「NAVは投資法人の独立委員会メンバーである監督役員が公正性を担保してきた価額である」という指摘は論理的かつ説得力があり、それを上回る価額でのTOB価額に対して「公正ではない」と独立委員会が表明することは自己矛盾であることを突いた指摘であり、実際問題反論しにくいと考える。また、M&A手続きに関しても、独立第三者による公開買付であるにもかかわらず、利益相反が構造的にある「MBO指針」に「保守的」に実質準拠しており、投資主に無理な判断を強いているとの反論は困難と言わざるを得ない。客観的に見て「なかなか反論しづらいボールを投げている」というのが率直な印象である。


本回答報告書にて、公開買付期間の延長及び投資主総会での審議は拒否されたことから、公開買付期間の終了日である5/24までに本件が決着することが想定される。なお、案件公表後から4/22まで投資口価格は一貫してTOB価格20,000円を上回って推移しており、市場は昨年のユニゾホールディングスの争奪戦のような「対抗TOBの出現」を期待しているといえる。


今後の注目点


  1. 回答書を受けた投資法人側の反応及び対抗策(ホワイトナイトの招聘?)

  2. 対抗TOBの出現

 

[2021/04/28]

回答報告書に対する対抗措置として4月23日、投資法人は法的措置に踏み切り、本公開買付の緊急差止命令を裁判所に対して申し立てるよう、行政当局(金融庁長官、証券取引等監視委員会、関東財務局長)に対して申入れた。主な理由は以下の通り。


1. 本公開買付者が金商法及び投信法に違反


(1) 投信法においてスクイーズアウトは想定されていない


- 支配投資主が少数投資主を金銭により強制的に締め出すスクイーズアウトは投信上想定されていない

- 投資法上、少数投資主を金銭で強制的に締め出すスクイーズアウトは認められない


(2)対価の公正性を争う手段のない投資口併合を予定する投資口の公開買付には強度の強圧性がある


(3)本公開買付は金商法及び投信法に違反


2. 投資者の損害拡大を防止する緊急の必要があり、また緊急差止命令以外に方法がない


所感


本来、投資法人の役員が反論すべき点は自らが上場を維持して運営した場合に実現できる投資口の価額が公開買付価格よりも高い価額であって欲しいが、NAV13%プレミアムの実現は容易でないこともあり、法的有効性を争点にせざるを得ないという側面も否定できないように思える。もっとも、スクイーズアウトの法的な有効性が必ずしも判然としないこともあり、公開買付期間を延長し本公開買付の是非について私的自治に委ねる(投資主総会の決議を得る)べきという考えも一理あるように思える。ただし、当該公開買付を止める手段が、本公開買付に事実上ゴーサインを出した金融当局からの差止命令の裁判所への申し入れしかないのであれば、やや投資法人側の分は悪いように思える。


今後の注目点



1. 本公開買付の法的論点の行方


(1) 公開買付を認めた行政当局が自らの判断を否定できるか?


通常の公開買付届出書提出のプロセスに鑑みると、公開買付者は一定期間前から関東財務局に事前相談を行った上で公開買付を開始しているはずであり、その際に当局も本公開買付の適法性及び公開買付届出書の記載内容については事実上確認していることになる。そのため、本公開買付の緊急差止命令を行政当局自身が裁判所に申し入れることは、当局自身が自らの行政判断を否定することを意味するため、相当のハードルがあると思われる。


(2) 少数投資主がスクイーズアウト価額に不満がある時に法的に救済されうる権利があるのか?


SC側は投信法上、投資口併合により生じる端数について投資主は純資産の額に照らして公正妥当な金額を受領する権利があると解釈するのが自然と主張している一方で、投資法人側は、株式会社では認められているような取得価格決定申立権や反対株主による株式買取請求権の制度がないため救済されうる権利がないと主張している。


(3) 本公開買付に強圧性はあるのか?


SC側は、NAVは投資法人自身がこれまで主張してきた公正な価額であり、スクイーズアウト価額は当該NAVに13%のプレミアムを乗せた公開買付価格と同じであることから、強圧性の問題は生じないと断言しているが、一方で投資法人側はスクイーズアウトがなされる局面での公正価値は、上場株式同様、(ア)非公開化がなかった場合に少数投資主が享受できる価値と(イ)非公開化により増大が期待される価値のうちの少数投資主が享受すべき部分との合算した価値であり、NAVプレミアムであることだけを持ってスクイーズアウト前提の公正価値とは言えないとの主張である。


2. SC側の公開買付価格にかかる更なる説明


スクイーズアウト価格20,000円が、投資法人が主張している(ア)非公開化がなかった場合に少数投資主が享受できる価値と(イ)非公開化により増大が期待される価値のうちの少数投資主が享受すべき部分との合算した価値であることを疎明できるか?


3. 対抗TOBの出現


用語解説


スクイーズアウト…M&Aにおいて、ある会社の株主を大株主のみとするため、少数株主に対して金銭等を交付して排除すること。(引用:Wikipedia

 

[2021/05/06]

本日、5月6日、投資法人はTOBに反対することを決議するとともに、資産運用会社の親会社のインベスコ・リミテッドに防戦買いを要請した(買付期間:2021.5.7-5.24。買付方法:市場買付その他の方法)。なお、防戦買いは上場維持が前提と想定される。


TOBに反対する理由は以下の通り。


(1) TOB価格は投資口価額対比不十分


- 外部の第三者評価額対比でTOB価格20,000円は低い水準(ただし、第三者評価額は非開示)

- 現在のポートフォリオは2019/9以降であり、新型コロナウィルスで投資口価額が下落する2020/3までの投資口価額は20,000円を大きく超えて推移

- 足元のJREIT平均のNAV倍率は16倍、オフィス系 JREITで1.16倍であり、TOB価額/NAV1.13倍は高い水準とは言えない


(2) SCのTOB及び非公開化目的に疑義があり、投資主共同の利益を害する恐れあり


(3)本件プロセスは強圧性を有し、投資主の利益を軽視


また、投資法人は外部アドバイザーとして、野村証券、SMBC日興証券を財務アドバイザーに、西村あさひ及び長島大野を法務アドバイザーとして任用、さらに特別委員会が牛島法律事務所を法務アドバイザーに任用している。


なお、防戦買いの終了期間はTOBの終了期間に連動する形で設計され、また市場買付が想定される。


所感


投資法人側がTOB価格の不十分性を根拠とともに正面から主張しTOBに反対したのは王道と評価できる。また、TOBが公表されて以降、投資口価額はTOB価格20,000円を常に上回って推移しており、インベスコグループによる防戦買いの買値も20,000円以上の時価での取得となることが想定される。


今後の注目点


  1. SCによりTOB価格の引き上げ及び期間の延長はなされるのか?

  2. どの程度のインベスコグループによる防戦買いが成立するか?

  3. (TOB期間が延長された場合)投資主総会で本TOBの是非が争点となるのか?

 

[2021/05/13]

5月10日、SCはTOB価格を20,000円から21,750円に引き上げ、かつ買付予定株数の下限を発行済投資口数の2/3から55.27%に変更した。下限の引下理由はTOB公表後の調査で判明した運用方針上公開買付に応募しないことが予想されるインデックスファンド保有の投資口数を除いた一般投資主ベースで2/3を超える応募を得ることが適切と判断したことによるとされる。


インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人の投資口を対象とした公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ