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日本郵政によるトール国内物流部門売却観測

更新日:2021年6月28日



日本郵政(6178)による経営不振の豪トール・ホールディングスの国内物流部門売却観測報道を受けて、同社の株価は3.36%下落した(日経平均は2.04%下落)。


トール買収については、買収から2年後にもかかわらず業績不振により4000億にも上る巨額の減損の発表を余儀なくされたことを契機として、高すぎる買収価格やシナジーの不在をメディアや市場参加者から数多く指摘されたが、真の問題の所在は「IPOの成功のために買収をおこなった」という本末転倒にあると考える。


「上場前に日本郵政グループのエクイティーストーリーを示したいという思いもあったのではないかと思料しております。(2017年4月25日、社長会見冒頭挨拶)」と同社経営陣も公にそれを認めている。


そもそもエクイティーストーリーとは何か。


「エクイティーストーリーの目的は、発行会社のビジョンを形作り、投資家がなぜ株を買うべきかの説得力ある理由として位置付けられる(2017年6月22日, PwC ホームページDaniel Klausner氏のコメントより)。」


投資銀行において、IPOなど事業会社の資金調達により多額の引受手数料を得る狭義の投資銀行部門(IBD)では頻繁に聞かれる言葉であるが、皮肉にも株式の投資家への販売を担当する日本株セールス部門ではまず聞かれない言葉である。投資家は「物語」ではなく、事業戦略の内容とその実行によって期待される利益をシンプルに聞きたいからであろう。


IPOと時期を同じくして企業の事業ポートフォリオが大きく変容することがあるのは当然である。

JR九州は国からのミルク補給である経営安定基金に頼らず自立経営に移行するにあたり、構造的に鉄道事業では収益の黒字化が見込めないため、保有不動産を活用した不動産賃貸事業を加速する必要があった。そのための資金をIPOにより調達し、結果として企業価値の大きな成長を実現した。


JR九州のように事業成長のための大規模な資金の確保のためにIPOを実施することや、直接的に資金が必要ではなくても成長を担保する社会的信用の獲得のためにIPOを選択することもあるだろう。


ただIPO自体が目的となり、そのための「物語」創りのためにM&A等により事業拡大を目論むのは甚だ本末転倒である。

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