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持合い株式は本当に問題か

更新日:2022年1月18日



コーポレートガバナンス・コードにおける政策保有株式・持合い株式


政策保有株式とは、日本企業に特有の仕組みで、1960年代頃から広まったと言われており、企業が取引先との関係維持や買収防衛といった経営戦略上の目的で相互に株式を保有し合うことを指す。


他方で、企業が相互に株式を持ち合うことにより資本効率が悪化することや、議決権行使による監視機能が正常に機能しない懸念があることは投資家からしばしば指摘の対象となり、東京証券取引所等による2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂で政策保有株式の削減が謳われて以降、上場企業は政策保有株式の売却や保有理由の説明に迫られている状況である。


コーポレートガバナンス・コードでは、株主の権利や平等性の確保の観点で、政策保有株式の保有目的が適切か、便益やリスクが資本コストに見合っているかを検証・開示すべきとの原則が示されている。更に2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂にあわせ、金融庁が「投資家と企業の対話ガイドライン」を改訂した。当ガイドラインにおいては、政策保有株式の保有効果の検証について、「独立社外取締役の実効的な関与等により、株主共同の利益の視点を十分に踏まえ」ているか、「そうした検証の内容について検証の手法も含め具体的に」開示されているかといったポイントが追加されており、企業側は政策保有株式の保有方針について、検証・評価方法も含めてさらなる開示を求められることになる。


こうした動きの中、企業の有価証券報告書においては政策保有株式に関する開示が拡充されているものの、定量的な保有効果については「営業秘密等の観点から記載が困難」等の記載も目立っている状況だ。今後の企業と投資家間の建設的な対話を見据えた際、持合い株式が本当に問題かについては、より具体的な情報を元に企業間の関係について多様な観点を踏まえた判断が必要となるだろう。


企業間の関係性を定義するものの類型とそれぞれの意味合い


このような政策保有株式の持合い状況を、企業間の関係性を測る1つの指標として捉えると、政策保有株式以外にも企業間の関係性の把握に資する情報は存在し、例えば以下のような類型化が可能だろう。

(astamuse 作成)


ここで、資本関係という強い(直接的な)繋がりに加えて、資本が絡まない特許の共同出願等からも企業の関係性を把握することが可能であることを踏まえ、政策保有株式を保有している一部の企業について、アスタミューゼが保有する特許データベースから特許の共同出願に関する情報を抽出した。これにより、株式保有先企業との関係を、特定の観点からではあるがより明確に捕捉することが可能である。


特許データベースからの共同研究の抽出による関係性の捕捉


直近5年間で、いわゆるアクティビスト(物言う株主)による株式の大量保有が報告された日本企業242社を対象に、政策保有株式の保有状況について整理を行った。企業ごとに保有先企業を特定し、各企業がどういった企業と繋がりを持っているかを確認した。


特許データベースからは、2016年以降に出願/公開された世界の特許のうち、出願人が複数存在する特許を抽出した。抽出した特許情報は企業の財務情報等と紐付けを行い、上記で整理した企業-保有先企業による共同出願が存在するかを確認した。


銘柄コードの業種別に上記確認結果を整理すると、以下の表の通りである。


(大量保有報告書及び特許データより astamuse 作成)


242社の内37社については、2016年以降に保有先企業との特許の共同出願が行われており、実際に研究開発/技術開発における関係があることが分かる。


業種によりR&D比率や研究開発動向は異なるため、一概に比較することは難しいものの、化学・薬品や資源・素材系の業種においては、持合い先の企業と実際に共同研究等の取組を実施している企業数の割合が比較的高いことが伺える。


所感


共同開発の成果としての特許公開が実際の製品/技術の上市に結びついたかといった観点や、そもそも特許化するのか秘匿化するのかといった知財戦略上の観点もあることから、共同出願の特許数のみで政策保有株式の保有の意義を説明/解釈することには議論の余地があるものの、企業側としては共同での技術開発を行っている事実や本協業による具体的な成果等、より踏み込んだ内容の開示を検討することも1つの方向性となるのではないか。


また、投資家側は企業の資本関係や商取引関係といった観点だけではなく、共同事業や共同研究での繋がりといった観点からも多面的に企業関係の価値を評価し、適切なエンゲージメントを行うことが必要となるだろう。



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