代表的な特許資産価値算定方法とその課題

更新日:2021年12月22日



7月2日の記事「無形資産の価値について」で、無形資産の経済的・財務的価値評価に関して簡潔に触れたが、その続編として代表的な特許資産価値算定方法とその課題などにフォーカスする。


まず、代表的な手法の一つに原価法がある。

これは本邦における典型的なコストアプローチであり、特許出願/維持にかかる・かかった費用(研究開発費、R&D部門人件費、関連設備投資、特許出願/維持費用等)を特許の経済的・財務的価値として評価するものである。


同手法の課題としては、客観的かつロジカルな算出が可能である一方で、コスト面だけにフォーカスしているがゆえに実態価値との整合性に関して納得感が得られづらい点が挙げられる。


別の代表的なアプローチの一つとして挙げられるのが、類似取引比較法である。

これは、類似の特許が市場で取引された価格や損害賠償などの判例を基に特許価値を算出するマーケットアプローチの一種であり、M&AなどにおけるマルチプルやIPOにおけるバリエーション(PSR・PERなど)の考え方に類似している。


同手法も理論的には一定の納得感はあるものの、実際には特許の譲渡情報は公開されることが少ない、また本邦においてはそもそもの特許の流動性が高くないなど、参考となるサンプル数が非常に少ない、サンプル選定における恣意性が主要な課題として挙げられる。


企業価値算定などでも広く用いられるDCF法も同じく代表的な手法の一つである。

すなわち特許を根拠として成立する事業やライセンス収入の価値を現在価値に割り引いて価値算定するインカムアプローチである。DCF法にはいくつか方法が存在するが、特許を根拠とした事業「利益」に対して25%の寄与率を乗じたうえで現在価値に割り引く方法が一般的である。しかしながら、寄与率25%の根拠は確かなものはなく、暗黙の了解で取り扱われるケースも多い。


また、DCF法の中でも特許の実施料率(ロイヤリティ)にフォーカスした手法であるロイヤリティ免除法においては、業界や領域の慣例、過去判例などに鑑みた推定ロイヤリティ料率を仮定し、「仮に自社特許がなく、他社からライセンスを借り受けたと想定した場合に、どの程度の費用負担が発生するか」を算出する。


本邦のみならず米国などでも一般的な方法であるが、実際の実施両立は会社間契約で決まるため一律で決まらず、斯様な理由で情報源も少ないため、一定の基準が存在しないことが課題となる。


以上が一般的な特許の経済的・財務的価値算定方法であるが、実際には業界や領域における慣例、対象特許群に関連する技術・ソリューション、ターゲットとする市場のステージ(黎明期~成熟期、など)、注目度などによっても最適な手法は変化する。


また、これまで相対での交渉事となるケースが基本だったこともあり、全般的に情報源の少なさやケースごとのレンジが幅広くなりがちであったが、今後IRやその他対外公表などで無形資産の価値評価を単一方向的に示していくようなユースケースが増加していく中では、より目的に即した特許の経済的・財務的価値評価の枠組みが求められることは言うまでもない。


 

【用語解説】

PSR…Price to Sales Ratioの略称で和訳は株価売上高倍率。時価総額を年間売上高で割ったもの。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集


PER…Price Earnings Ratioの略称で和訳は株価収益率。株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される尺度である。(出典:野村證券株式会社 証券用語解説集

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