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既存株主への影響に配慮した自己株式処分?

更新日:2021年12月22日


7月14日、ラウンドワン(4680)が海外募集による自己株式処分(ABB)を決議し、同日条件決定した。


海外募集による自己株式処分の概要


募集株数:6,754,000株(発行済株式数(自己株式控除後)の7.6%、保有自己株式の99.99%)

条件決定日:7/14〜7/15のいずれかの日

募集方法:欧州及びアジアを中心とする海外市場

払込期日:7/29

受渡期日:7/30

資金使途:手取概算額83億円について下記に使用

2023年3月までの長期借入金の返済資金  73.5億円

2023年3月までの社債の償還資金     9.4億円

株券貸借:筆頭株主の杉野社長が、募集株数と同数を上限として、所有株数を主幹事証券に貸付。主幹事証券は、実質的な決済期間短縮化の機会提供を目的に、配分を受ける投資家に借り受けた株式を貸付ける可能性あり。


条件決定概要


条件決定日:7月14日(発行決議日と同日)

処分価格:1,244円(7/14終値1,388円の7.03%)

払込価格:1,190.48円


ABB(Accelerated Book Building)とは、投資家の需要を募るブックビルディング期間を可能な限り短くすることで発行株価を決定する株価の下振れリスクを極小化する手法である。本オファリングでは発行決議と同日の条件決定に成功した。


我が国の公募型エクイティファイナンスにおいては、国内投資家に販売する際には一定期間経過後に効力発生する「有価証券届出書」の提出が必要となり、かつ個人向けに株式を販売する際には一定のマーケティング期間が必要となるため、発行決議から条件決定までの期間の株価下落リスクを発行会社が負担する必要がある。


一方で、海外投資家のみに販売する場合には有価証券届出書の提出が不要(臨時報告書の提出のみで可)、かつ機関投資家限定であるためマーケティング期間の圧縮が可能となることから、ABBは専ら「海外公募」のみ取りうる手法となっている。かつては資本市場において知名度が十分な会社しか採用できない方法であったが、直近では新興系企業(マネーフォワード、ユーザベース、メドレー、BASE、マクアケなど)もABBによる公募増資を積極的に採用しているところである。


自己株式処分の背景


2021年3月期は新型コロナウイルスの影響による営業自粛を余儀なくされたこと等に起因し179億円の赤字を計上、かつ財務基盤の安定化のために長期借入金を483億円増加させたことから、自己資本比率が2020年3月末の47.8%から27%に下落した。また、今後コロナ禍の落ち着きとともに、特に海外(米国、中国)での新規出店に力を入れていく方針であることから、財務体質の強化のために資本増強を選択したとされる。


既存株主に与える影響の配慮のために、募集株式数を保有自己株式数に限定?


会社は既存株主に与える影響に配慮し、募集株式数を保有自己株式数に限定した、とプレスリリースで主張している。

この点、現在の開示制度における一株あたり利益(EPS)の計算においては、会社が保有する自己株式は分母の発行済株式数からは控除され、自己株式を処分(放出)した際には分母が増加するので、既存株主が注目するEPSの希薄化への影響は新株発行でも自己株式処分でもニュートラルなはずである。また発行手続面においても、自己株式処分は会社法、金融商品取引法上も新株発行と同様の手続である。

しかし、未だに「取得した自己株式は消却されなければ、自己株式の再放出にかかる投資家の懸念は払拭できない」といった議論が、一部の機関投資家や証券アナリストの間で根強く主張されるのも確かである。


会社の主張は、自己株式は恒久的に保有を予定しているものではない(一時的に保有する)ことを前提とした主張であると思われるが、それでは自己株式を取得した際にはどのような意図を公表していたのだろうか?


2020年3月31日の自己株式取得のリリースには「資本効率の向上を図り、機動的な資本戦略に備えて自己株式を取得する」と記載されているが、この「機動的な資本戦略」という部分にメッセージが込められていたのであろうか?

私見では、合理的な理由で適切な規模、タイミング、手法で資本増強が行われるのであれば、自己株式数に限定しなくても、既存株主に与える影響に配慮したオファリングと言えると考える。


Jefferies証券のアナリストは本件に対して、EPS計算では既に自己株式を控除して計算しているのでネガティブだとコメントしている。翌7/15の終値は昨日対比8,59%の下落となった。

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