SPACの意味するところ

更新日:2021年12月22日


米国市場でのSPAC(特別買収目的会社)新規上場が急減速しているとの報道がある。ワラント部分の会計処理や将来情報の開示の問題に端を発した調整と考えられるが、新規供給が細ったとしても昨年来の調達済みのSPACによるM&A待機資金は約9兆円とみられ、その帰趨は注目される。


一方で本邦においての議論は、一部にベンチャー成長資金の供給の文脈で内閣府も含めて前向きの姿勢も散見されるが、伝統的な資本市場の関係者や経済メディアは「SPACは要は空き箱を利用した裏口上場であって一過性の徒花にすぎない」という否定的な論説が多い。CODE編集部は今後もこのSPAC現象をフォローしていきたいが、まずはあまり語られていないアングルとして「転換社債とのアナロジー」、「発行市場の民主化」という点の考察から始めたい。


転換社債投資とのアナロジー


SPAC投資家が払い込んだキャッシュは買収先が決定するまで国債などの安全資産で運用され、買収先が気に入らなければ償還請求により投資元本(プラス金利)を回収できる。つまりスポンサーに白地小切手(blank check)を切ったのではなく証拠金を預けているようなものである。


これは投資家からすると魅力のある投資損益の見通しとなる。つまり、投資先のSPACによるM&A発表後、株価動向により企業価値が高まる見通しであれば合併を承認してアップサイドを享受でき、そうでなければ償還権を行使して元本が確保できる。これは、株価が上がれば普通株に転換し、下がれば社債として元本回収できる転換社債投資における投資家に有利な非線形の経済性に類似する。


実際にはSPACスポンサーに20%程度の株式がほぼ無償で付与される希薄化を吸収して企業価値が高まる必要があるが、これも転換社債でいうところの転換価格プレミアムに相当し根本的に魅力を奪うものではない。IPOのような公募価格割れリスクがないことから投資への誘引が高い点は、転換社債オファリングが普通株増資(PO)に比べて取引執行の確実性が高いことと類似している。


次なる疑問はその美味しい転換権オプションを誰が放棄しているのかということになるが、転換社債の場合は集合的に既存株主であるが、SPACの場合は買収対象会社の売主である。一見「不平等条約」であり、(SPACとの買収が否決されるという)ダウンサイドを負担しつつアップサイドを売却するのは非合理に見えるが、そこが資本市場のゼロサムではない面白いところで、投資家需要の喚起により取引成立の蓋然性が高まるのであればwin-winとなる。


SPACにおいてもイノベーションが進んでおり、買収後の株価が一定水準を超過した場合は既存株主(売主)がそのアップサイドの一部を享受できるアーンアウトのスキームも用意される案件も出現しているとのことで、これも転換社債市場でCall Spread Overlayと言われているものと経済的には等価で興味深い。本来、ブックビルディングでの需要申告で単純な線形の損益で価格発見され取引が成立されていたIPO市場に、このようなテクノロジーを移植するところが米国資本市場ならではの創造性と言えるのではないだろうか。


発行市場の民主化


SPACにおいては、伝統的なIPOにおいて引受証券会社が担ってきたDD機能を株主の自治が代替することになったとも言えないだろうか。


引受証券会社を介さず株主の自発的な判断に任せる点ではライツオファリングにも似ているところ、本邦において当初高らかなファンファーレで導入されたライツについて不公正増資の温床になっているとして証券会社の引受審査による投資家保護が導入され、結局は公募増資の既得権益が侵食されず多くの発行市場関係者が安堵することになった顛末と、現在のSPACに対する証券会社の微妙な態度も二重映しになる。


無論、SPACにおいては当初のIPOにおいて証券会社の引受機能に依存しているが、本来実質元本保証であれば引受リスクもなく将来的には証券会社を介せず当初の資金調達ができるようになる可能性もあろう。また、証券会社の代わりにスポンサーが目利きの機能を代替しているという見方もあるが、最終的な決定を株主総会での採決に委ねるというのは大きなレジーム・チェンジではないだろうか。


伝統的なIPOでは、ブックビルディングは機関投資家と投資銀行の間でなされ、一般個人投資家は蚊帳の外で株を配分させてもらえれば御の字、といった構図と比べるとより「民意」が反映された資本市場ではないかと思われる。


IPOの構造的なアンダープライシングや高止まる引受手数料にも歯止めがかかることも期待される。スポンサー持分による希薄化やSPAC上場時の引受手数料があり売主にとっての経済性はあまり変わらないのが現状かもしれないが、中長期的にはそういった「補助輪」が外れる可能性もあろう。


Googleによる2004年のダッチオークションによるIPO価格決定や、Spotifyによる2018年の直接上場(Direct Listing)などのDisintermediationの試みに直面した証券業界は、それらの最終投資家のより直接的な参加は「高い質の安定的な機関投資家の株主ベースの形成」に反するものとして否定的な論陣を張ったが、ロビンフッド現象が流通市場での民主化の動きだとすれば、SPAC現象は発行市場での民主化の第一歩を意味しているのかもしれない。

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