本記事では、引き続き内閣府の知的財産戦略本部が2021年7月31日にまとめた「知的財産推進計画2021」で示された重点7施策について、THE CODE編集部の知見も交えつつ紹介していく。
施策3:21世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備
諸外国は、デジタル社会においてデータが国の豊かさや国際競争力の基盤であると捉え、データ戦略を強力に推進しているが、日本では十分な活用が進んでおらず、データ流通・利活用を推進するための環境整備は、知財戦略としても喫緊の課題であることは周知の事実と言える。
政府としても、デジタル政策を最重要政策課題に掲げ、2020年10月にデジタルガバメント閣僚会議の下に「データ戦略タスクフォース」を設置し、2021年6月に「包括的データ戦略」を策定し、データプラットフォームの整備やデータ取扱いルールの実装等に着手した。
こうした中、2020年度、内閣府知的財産戦略推進事務局と内閣官房IT総合戦略室が共同で、データ流通推進のためのルールづくりにおいて下記3つの検討を行った。
[1]データ取り扱いルールの必要性
データから価値を創造するまでのプロセスと関与者の果たす役割
(出典:「知的財産推進計画2021」)
データからソリューション(価値)を創出するまでのプロセスにおいて、多数の関与者がデータ流通を複雑にしていることに対して、データ提供者・利用者が下記のような懸念や不安感を抱いており、これがデータ流通の阻害要因となっている。この阻害要因を払拭するための連携基盤の運用ルールを整備することで、データ流通を推進し新たな価値の創造につなげていく必要があるとした。
提供先での目的外利用(流用)の懸念
知見等の競合への横展開への懸念
パーソナルデータの適切な取扱いへの不安
提供データについての関係者の利害・関心が不明
対価還元機会への関与の難しさ(データ提供者に適正な利益配分をする難しさ)
取引の相手方のデータ・ガバナンスへの不安
公正な取引市場の不在
自身のデータが囲い込まれることによる悪影響
[2]データ連携基盤(プラットフォーム)におけるデータ取扱いルール
前出の「包括的データ戦略」では、分野横断/分野別のデータ連携基盤(プラットフォーム)の構築が急がれているが、データ取引当事者の懸念・不安を払拭するため、データ提供者・利用者・取引市場各々が守るべきデータ取扱いルールをプラットフォームの運営及びプラットフォームへの参加条件として整備することがデータ流通には必要となると謳っている。プラットフォームは下図のように2タイプが存在する。
2タイプのプラットフォーム基盤(出典:「知的財産推進計画2021」)
1つ目はデータ提供者とデータ利用者との間でデータ取引を仲介するデータ取引市場で、先に図示した価値創造プロセスを担うことはない。2つ目は他者から取得したデータや自ら生成したデータを、収集・蓄積、統合・加工、分析・価値創出等して他者へ渡すデータサービスプラットフォームで、価値創造プロセス上の一又は複数の役割を担っており、データ取得元に対してはデータ利用者、データ提供先に対してはデータ提供者、つまりデータ当事者となる。
[3]データ取扱いルールの原則
共通的なデータ取扱いルールの指針として、以下の5つが挙げられるとした。これは前述のデータ流通の阻害要因を払拭するために必要なルールセットである。
データ流通の阻害要因を払拭するためのデータ取扱いルールの原則
(出典:「知的財産推進計画2021」)
また、データの第三者提供の範囲に応じて、Open、Share、Closeの3つの取引タイプに応じてこのルールセットを具体化する必要がある点についても言及している。
データ取引のタイプ(出典:「知的財産推進計画2021」)
最後に
データが21世紀の経済社会を先導する重要な知財として蓄積されるためには、データの価値付けについて一定程度事前予見性が与えられることが望ましい点も重要なポイントである。
データはその発生時点では、ある特定の主体が特定の用途のために特定の仕様で生成している場合が多いが、2次利用がしやすいように仕様や属性のデータのとり方を調整したり、記述形式を統一するための加工を行ったりする等の投資を行うことで初めて流通価値のある知財=情報源となる。
データは共有・利用されるほど価値が増し、それにより減価するものではないことから、排他独占的所有権というよりは、前述の懸念事項を払拭するための利用条件が付されたアクセス権を与えることがふさわしく、こうしたアクセス権を取引する市場の実装に向けた検討と実証を進めることが期待されるとしている。
上述の議論はデータの共有化に関する仕組みづくりの議論が主な部分であったが、企業を主語にしてデータという知財について考えると別の視点が見えてくる。
THE CODEではデータ資産の価値に関しても取り扱っていく予定であるが、データの種類は数多あるとは言え価値評価の観点でいうと大きく3つのステージに分かれると整理している。
希少型:データの取得ポイントが少ない、取得が難しい等の観点から、そもそも一定の品質が担保されたデータが世の中にそこまで存在しない状態。可視化(デジタル化)だけで一定の付加価値が存在しうる
分散型:取得はある程度可能であるが、データ取得ポイント(顧客基盤など)が分散しており、世の中にデータが分散している状態。予測や判定への応用だけではなく、データの共有化による価値向上も戦略の一つとして取りうる
一般形:取得も可能で、基本的に多くの人がアクセスできる状態。データそのものというよりも、予測や判定・解釈をすることによりより大きな価値が出る
データの共有化は、上記の2→3のフェーズで必要となる議論であるが、(特に本邦の)企業のデータ活用は一部進んでいるテーマもありつつもその多くが1や2のフェーズにあるのではないかと推察する。したがって、それぞれのフェーズに応じた評価の仕方も検討する必要があるだろう。
加えて、上述「ルールの必要性」でも論じられているように、2→3のフェーズにおいてはデータの資産価値が著しく毀損するリスクを孕んでいることから、「どのタイミングで」「どういった立場で」共有化を進めていくかは当然のことながら慎重なかじ取りが求められるだろう。
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