top of page

NIPPOへのTOBはENEOSの資金調達?

更新日:2021年12月22日



9月7日、ENEOSホールディングス(5020)(以下、ENEOS)は57%の上場子会社のNIPPO(1881)(以下、NIPPO)に対する公開買付にかかる基本契約を締結した。ENEOSとゴールドマンサックス(以下、GS)が買収ビークルを通じてNIPPO株をTOB等を通じて非公開化し、一連の取引の結果として最終的にNIPPOはENEOSの50.1%子会社(非上場)となる。



本件取引の背景


2019年6月28日付で経済産業省が「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を公表するなど、上場子会社のガバナンス体制の公正性、透明性がより一層要請される中で、ENEOSは上場子会社の在り方を定期的に点検した結果、今般、道路舗装業界トップのNIPPOについて、グローバルな事業展開に関する知見を有し、かつ不動産事業に携わる同業者としての知見、ノウハウ等を有するGSと共同して非公開化することが、少数株主との利益相反が懸念される親子上場を解消し、かつNIPPO経営陣の意思決定の柔軟化・迅速化に資すると判断したとされる。


本件取引の概要


本件取引の概要は以下のとおり。

  1. GS設立の買収ビークル(以下、公開買付者) によるNIPPOへの公開買付 ・TOB価格4,000円(観測報道前の営業日株価の32.9%up, 同1ヶ月平均比36.9%up, 同3ヶ月平均比34.1%up, 同6ヶ月平均比38,7%up) ・ENEOS保有の57%はTOBへ応募せず(非公開化後にNIPPOによる自己株買いに応募)

  2. 公開買付者についてENEOSによる50.1%子会社化 ENEOSによる公開買付者への出資及び公開買付者の資本再構成を通じ、公開買付者はENEOSの50.1%子会社に

  3. 公開買付者によるNIPPOのスクイーズアウト

  4. NIPPOによるENEOSが保有する57%持分の自己株買い ENEOSが4000円のTOBに応じていたと仮定した場合の税引後の手取り額と同額の税引後の手取り額を実現する自己株式取得価額2,859円を設定。(ENEOSのみなし配当の益金不算入規定(※)を踏まえ、TOB価額の最大化と株主間の公平性を両立させるために一物二価にしたとの説明。)


また、NIPPO取締役会による賛同表明が本日公表されている。

本件取引は、支配株主による公開買付であるため、NIPPOにおいても少数株主の利益を保護する観点から、取引の公正性を担保するために特別委員会が組成され、当該委員会の数回の答申により、公開買付価格が当初提案の3,600円から、3,800円、3,850円、3,900円、4,000円と切り上げられた経緯が説明されている。


なお、公表情報から想定されるENEOSの本取引における資金の移動は以下の通りであり、本件取引はENEOS(単体)にとって1,730億円の資金調達という事になる。


(1)ENEOSの公開買付者への出資:210億円の支出

(2)NIPPOによる自社株買いへの応募:1,940億円の収入


この点、ENEOSのリリース上「本取引及び本自己株取得に要する資金は、公開買付者によるNIPPO株式等を担保としたノンリコース・ファイナンスでの調達が予定されている」とあるので、本件はENEOSとGSが共同でNIPPOのLBOを実施したものに他ならず、かつENEOS連結ベースで見た場合には、NIPPO株式を担保にした資金調達ということになる(NIPPOの2021/3期の自己資本比率は65%であり、かつビジネスは非常に安定的)。


なお、ENEOSのリリースにおける今後の見通しにおいても「本取引による2022年3月期の連結業績への影響は軽微と見込んでいる」とされていることからも、ENEOSはNIPPO株式を法形式上は売却しているが、売却損益などのPLインパクトは発生せず、ENEOS連結においては本件取引は資金調達と位置付けられる。


所感


上場子会社を支配株主がLBOを通じて非公開会社化した取引はあまり例がなく、本件取引は、コーポレートガバナンス・コードにおいても議論となっている親子上場を解消を図りながらも、実質的にはENEOSの資金調達案件と捉えることができる。


また、出口シナリオは再上場を目指すものの、再上場直前にはNIPPOをENEOSの連結から外す予定であり、親子上場を繰り返す意図はないとされている。


なお、本来であれば、一連の取引においてNIPPO株式の売買価額(TOB価額も自己株式取得価額も)は一物一価で4,000円とすることが自然のように思えるが、ENEOSがNIPPOの自己株式取得への応募により得られる、みなし配当による益金不算入(100%)という親会社であれば当然に得られる税務メリットについて、今回の取引では少数株主と支配株主との間にNIPPO株式の売却に伴う経済効果に差が出ることは望ましくないとの考え方から、ENEOSがTOBに応じた場合の税引後の手取り金と同一の税引後の手取り額となるように自己株式取得価額をTOB価額よりも安い2,859円に設定した点(一物二価の設定)は大変興味深い。


これにより、NIPPOの支配株主であるENEOSが本件取引から得られる経済的利益が、NIPPOの少数株主が本件取引から得る経済的利益を上回ることはないと評価されており、今後同種の取引がなされる際の参考事例となる可能性はある。

 

【注釈】

※ENEOSはNIPPOの57%保有する株主であり、かつ6ヶ月以上保有していることから、ENEOS保有のNIPPO株式は税法上の「関連法人株式等(発行済株式等の1/3超6ヶ月以上継続保有している株式)」に該当するので、相対での自己株式取得への応募を通じてENEOSで発生する、税法上のみなし配当は100%益金不算入が適用されることになる。


【用語解説】

みなし配当…会社法上の利益配当ではないが、企業が自己株式の取得などを行った場合、資本金は変わらないため、1株当たりの資産価値が増える。この増えた部分を所得税法上「みなし配当」として、株主の課税対象となる。(出典:野村證券株式会社「証券用語解説集」)


最新記事

すべて表示
bottom of page