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「知的財産推進計画2021」重点分野と論点[4]

更新日:2021年12月23日



本記事では、引き続き内閣府の知的財産戦略本部が2021年7月31日にまとめた「知的財産推進計画2021」で示された重点7施策について、THE CODE編集部の知見も交えつつ紹介していく。


施策4:デジタル時代に適合したコンテンツ戦略


デジタル化の進展に伴い、コンテンツ産業を取り巻く環境はインターネットを前提にしたビジネスモデルが拡がるなど、大きく変化している。


デジタル化による流通市場の変化

(出典:「知的財産推進計画2021」)


デジタル化・ネットワーク化による流通環境、消費動向及び創作環境の変化、さらに、グローバルなプラットフォームサービスの台頭は、コンテンツの価値を増大させている。すなわち、コンテンツがデータ収集や消費者の囲い込みのツールとして位置づけられるなど、デジタル消費流通の経済圏へとユーザーを取り込み、データ駆動型経済を発展させるための中間財としての価値を併せ持つようになっている。


このような権利者・利用者・国民経済上の相互利益を拡大する社会経済的好機を最大限に活かすためには、良質なコンテンツが持続的に創造され、クリエーターに適正な対価が還元されながら、コンテンツの利活用が促されるエコシステムの構築が重要である。


そのような中、2021年3月に知的財産戦略本部の下に置かれた「デジタル時代における著作権制度・関連政策の在り方検討タスクフォース」において、「中間とりまとめ」が示され、①補償金付き権利制限、②集中管理と補償金付き権利制限の混合型、③拡大集中許諾、④裁定制度の抜本的見直しの4つについて比較・分析を提示した。


また、コンテンツ利用形態の多様化により、立法による対応だけでは追いつかないとの指摘もあり、マルチステイクホルダーの協議を通じて策定されたガイドライン等のソフトローの活用や紛争解決事案の判断内容をソフトローへ反映していく、必要に応じて行政機関や有識者等第三者の参加の下、当事者間の合意形成を図っていくことなども求められる。


コンテンツ・クリエーション・エコシステムを支える取組としては、昨今の海賊版サイトによる被害は深刻化していることから、2019 年10 月に「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表」が公表されたが(2021年4月更新)、引き続き厳正な取り締まりを実施していくとともに、官民一体となって対応を強化していく必要がある。


他方、日本におけるデジタルアーカイブの「構築・共有」と「活用」の推進は、文化の保存・継承・発展だけでなく、コンテンツの二次的利用や国内外への情報発信の基盤となる取組である。


日本が保有する多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索・閲覧・活用できる「ジャパンサーチ」は、2020年8月に正式版が公表された。デジタルアーカイブの共有と利活用サイクルの基礎を支えるプラットフォームとなる存在でもあり、デジタルアーカイブの構築が更に進められることにより、今後大きな成長が期待できる。


最後に、コンテンツの要ともなる映画、放送番組等の映像作品のロケ撮影は、国や地域の魅力が世界に発信されるとともに、地域経済の活性化、観光客の増加等様々な効果が見込まれる。新型コロナの影響により制約がある状況下であるものの、撮影環境の改善やロケ誘致に関する効果を検証しつつ、インセンティブとなる資金の提供を含めた持続的なロケ誘致策について検討を進めることが重要である。


施策5:スタートアップ・中小企業/農業分野の知財活用強化


スタートアップによる特許取得は、自社の技術力の高さの証明につながるとともに、円滑な資金調達や出口戦略においても有利に働く可能性があることに加え、大企業と対等なアライアンスを構築する上でも、特許やノウハウといった知財を保有していることは重要である といえる。


また中小企業も日本の競争力やイノベーションの源泉として大きな役割を果たしている。

一方で、大企業との連携を進める中で以下のような事例(註1)も明らかとなっている。


  • 大企業側の共同研究への貢献度がほとんどないにもかかわらず、成果物の特許については、大企業のみに帰属させるよう要求された事例

  • 保有する知財のライセンス等を大企業から無償で提供するよう要請された事例

  • スタートアップに対する投資契約において設定された株式買取請求権の権利行使を示唆することで知財の無償譲渡等を要請された事例

このような事例から、スタートアップ側の法的リテラシーの不足等が指摘されていることもあり、政府はモデル契約書の充実化や知財ポータルサイトの運営、知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の実施など、様々な支援を行っている。


農業分野の知財活用強化においては、日本の農林水産物・食品の海外市場での需要の拡大に伴い、日本のブランド産品の模倣品等が流出する事案や日本の和牛の遺伝資源が不正に海外に持ち出される事案等が生じ、ブランド産品の価値の棄損や農林水産事業者等の利益が損失する事態となっている。


このため、優良な植物新品種の海外流出防止に向けた改正種苗法が2020年12月に成立、2021年4月1日に施行、和牛遺伝資源の保護強化に向け、家畜改良増殖法の一部を改正する法律と家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律が2020年4月に成立、同年10月に施行された。引き続き、関係省庁が連携し、農林水産・食品分野における知財の保護・活用を着実に推進していくことが期待される。


前回記事で取り上げた「施策3:21世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備」においてもデータ資産に関しては触れたとおりであるが、コンテンツや品種などの一番の相違点は流出や侵害を明確に示すことが困難な点である。


他方で、それらをブランド資産としてとらえた際に生み出される経済圏は上述の通り非常に大きなものがある故、ビジネスモデルを変革しマネタイズポイントをシフトさせることによって利益を確保できるような仕組みづくりを促していく必要があると言えるだろう。

 

註1:公正取引委員会「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」(2019年6月)、同「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(2020年11月)など


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